どーせ嫌がって迷惑かけたんやろって、ムカツクわー。
茶髪の親友の顔マネをしながら、彼はその真新しいネクタイを外した。ネクタイだけじゃない、ソファに置かれた黒い背広も真新しいものだ。それらに触れ、彼女は今朝のことを思い出し笑みを零した。
大丈夫だろうけど、万が一のことがあってもまぁ、こんなの買う機会もないからと。買ったスーツ一式が、役に立つとわかった時の喜びようはやはりすごかった。普段は堅苦しいのは嫌だと騒ぐ彼も、この日ばかりはそんなことは口にしない。まぁ、多少の照れ隠しはあったのだが。
「メガネまでかけてノリノリだったもんね、あんた」
「せやろー。誰が迷惑かけたぁいうねん。ホンマ失礼なやっちゃで」
なぁ、慰めてーと後ろから抱きついてくる手を軽く叩いて、早く着替えなさいと苦笑する。
「せっかくかっこよかったんだから、今日ぐらいいい子なままでいなさいよ」
「録画とかしたん?」
「したわよ、一応。わかるやつはね」
「愛の力やねー」
ソファに置かれたスポーツ新聞の一面には、大きな文字で『代表決定』と書かれている。ほらほら、と体を離し、それから彼女は改めて「おめでとう」と口にした。
・・・・・・
真新しいスーツ=代表決定記者会見、という安易なネタ。
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薄い無料の求人誌をぱらぱらとめくっていると、彼はひとつの記事を指差した。
よくみかけるファーストフードの求人募集だ。
「これなんかえぇんちゃう?」
「んー、時給はよさそうだけど、ちょっとシフトきつそうじゃない?」
「なかなかやと思うんやけどなぁ」
なら、と次に指差したのはファミリーレストラン。
「ファミレスのくせにまかないがないってのがねぇ」
「そんなんいうたら、今時コンビニぐらいとちゃうん?」
「でもあんた、コンビニはダメなんでしょ?」
口をへの字にして彼女が文句をいえば、当ったり前やん! と彼の眉間に皺が寄る。酔っ払いに絡まれたらどないするんやとかタバコくさいの自分嫌やいうてたやろがとか。
それになぁ、と、真剣な顔をして、彼はきっぱり言ってのけた。
「あんなん制服いうたかて上着きとるだけやないか。そんなん嫌や!」
「制服ねー」
ぼけっと流してから、はたと彼女は我に返る。
制服? 上着だけなのが嫌?
改めて彼が選んだ店をみてみれば、どれもこれも制服がミニスカートなものばかり。
「……あんた、」
「何やその目? えぇやんか自前でコスプレできんねんでー?」
相談した相手が悪かったと、悟って彼女は深い息を吐き出した。
・・・・・・
バイトを決めるのに制服は大事ですよね☆(…)
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袖を通して、帯を締める。
無駄のない一連のその動きに、彼女はほぅと感嘆の息を吐いた。
いい加減ひとりで着れるようにならなきゃね、と呟けば、やめときやと笑う声が耳元でした。同時にぎゅっと帯が絞められ、終いやと軽く背中を叩かれる。
満足気に笑う顔を見上げ、彼女は唇をへの字にまげてみせた。
「前は着れた方がえぇって言ってたじゃない」
「自分の不器用自覚しときって」
本見たかてできんかったやんか。
思わず言葉を詰まらせていると、「それに」と髪に手が伸ばされて互いの額がこつんと触れる。俺かて着付けすんの好きやしな。楽しみとらんといて。
「楽しみ?」
「抱きついても触っても自分ちーとも怒らんし暴れへんし。役得やん?」
意地悪く笑う顔に、音を立てて額をぶつけ身を離す。
すぐ近くで感じられる体温とか、息遣いとか、真剣な表情とか。とかく落ち着かないその空間は、何度経験しても慣れるなんてありえない。それでも次をと望んでしまう、その心すら見透かされているようでひどく悔しい。
金髪の確信犯に絶対覚えてやるんだからと宣言すれば、まぁがんばりと面白がっている声が返った。
・・・・・・
着付けって絶対えr(ry
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きつい服は、どうにも苦手だ。
動きが制限されるのがどうにも窮屈で息が苦しかったし、肌も敏感だったから妙なこそばゆさを感じて居心地悪かったのだ。
さすがに今は部屋着に留めているが、昔は男物の上着、例えば父親のそれなどを外でも多用していたものだ。
引出しの中から男物の、しかも伸びてしまってくたくたのセーターを取り出して、ふむと首を傾げてみる。
足のお手入れも手のお手入れも、我ながらよくがんばっている方だと思う。おまけに今は冬だが、部屋の中は温かいしこたつもある。
彼がやってくるまであと数十分。
こいつにショートパンツを重ねた格好で出迎えれば、彼はどんな顔をするだろう?
いくつかのパターンを想像して、彼女は頬が赤いのを自覚しながらも小さく笑みを浮かべていた。
・・・・・・
だぼだぼっていいですよね(変態か)
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胸がいっぱいになりながら、手渡されたそれを抱きしめる。滑らかな手触りの、鮮やかなブルーのユニフォーム。裏返せば、真っ白な文字で書かれた8文字のアルファベット。
これが、興奮せずにいられるだろうか。
抱きしめたそれをじっと見つめていると、呆れた声が横からかかる。
「今更やろー? 青いユニフォームやなんて」
中学ん時に散々みたやろが。そういって苦笑する彼の頬が、ほんの少し赤くなっているのを見逃さなかった。なによぅ、あんただってうれしいくせに。喉元まででかかった言葉を飲み込んで、記者会見帰りでスーツ姿の彼に、ユニフォームを当ててみせる。
「かっこいいわよ」
これ着てゴール決めたらもっとだけど。
決められる? と見上げれば、彼の口角がにぃと挑発的に持ち上がる。
「誰に言うとるん、自分。決まっとるやろが」
「期待しているわ、ストライカーさん」
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1の続き?
アルファベットの文字数間違ってたらどうしよう(気にするのはそこか)
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