うそだよ

 大好きだよとか可愛いなぁとか。
 普段ヘラヘラ顔でくだらないことしか言わない彼が、ぞくりとするような視線を向けていた。こうして向かい合って口説かれる事は日常茶飯事のはずなのに、彼の眼だけが普通じゃなかった。
 まるで獲物を見る獣のような。ちろりと舌を動かすヘビのような。冷たくて、危険で、心臓をぎゅっと掴んでそのまま――――

 そのまま壊されて、しまいそうな。

「……どうなるんだろうね」
 キミをこのまま壊したら。
 低く囁く彼の指が、私の頬をすっと撫でる。
 その手が私の首に添えられたら。引き寄せられて重なった唇が乱暴に奪われワケがわからないぐらい彼にめちゃくちゃに蹂躙されたら。甘美な誘惑と、妄想が現実となることへの恐怖で思わず強く両目を瞑る。これ以上見てはいけない。見ていたらきっと、引き返せない。
 私が、私じゃなくなってしまう。
 ぎゅ、と唇を噛み締めると、ぷ、と変な音がした。
 その音は瞬く間に大きな笑い声となって耳に届き、唖然として目を開ければ想像通り大笑いする彼がいて。
「あーもー、やっぱりかわいいなぁ」
 今日が何の日か覚えてる?
 大爆笑の彼の顔と、今日という日を思い出して、一気に顔に血が上る。だって、そんな、彼は、彼が――――あぁそうだ、忘れていた。今日が一体何の日か、彼が一体何者であるのか。
 全身を支配する怒りにまかせ、彼の頬めがけ拳をふるう。倒れる彼に見向きもせず、部屋を出る私は気づかなかった。
 私を見る彼の眼が、自嘲に満ちたものだったことに。
 小さく、彼が零したその言葉にも。
「……うそだよ、なんて。僕はひとつもいってないんだけどね?」

・・・・・・
初か/めた/ろすさん夢です。
エイプリル・フールネタにしてみましたが、ちょっとわかりにくいな…

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

後悔

「なぁ、シゲ」
 俺に、言いたいこと、ないか?
 寸前まででかかった言葉は、振り返った君の笑顔にかき消された。あまりにいつもと変らない笑顔に、言葉が、声が、凍りつく。
「何? たつぼん」
「……なんでも、ない」
「? ホンマか?」
 心配そうな顔して覗き込むなよ。
「たつぼん、ムリしすぎるし、きぃつけや」
 そんな言葉なんか、かけるなよ。
 俺は、怖くて、たまらないのに。
「お前に言われなくても、気をつけてるよ」
「そんならえぇんやけど」
 
 この前の週末、東京駅でお前を見たんだ。
 でかい荷物抱えたお前をみたんだ。
 なぁ、ここ最近週末に練習こないのはなんでだ? 月曜に疲れた顔しているのは? ――――そしてそれを隠そうとする、のは?
 言葉は笑顔の前に空回り。
 明日聞けばと、先延ばし。
 
 後悔先に立たずで、俺は敵となったキミと逢う。

・・・・・・
こんな感じでぐるぐるしているたっつんが好き。です。