君を閉じ込める5題

 
 
1.すきだから、永遠に私のものだから / 2.その瞳にはわたしだけうつして / 3.私以外のヒトを触るその手を切り落として / 4.私じゃない名前を呼ぶ喉なんてつぶしてあげる / 5.きみの全てを飲み込んで、私のなかに閉じ込めるの

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

1.すきだから、永遠に私のものだから

 桜上水サッカー部の同窓会を兼ねた、W杯代表入り祝い。
 とはいえ主役であるところの成樹や竜也、将たちはあと1時間は遅れてくることになっている。在学当時あまりサッカー部と親交がなかった身としては、ほどほどに話に加わりつつ壁の花を気取るといったもんである。
 いつしか場の中心は誰かがもってきていた卒業アルバムとなり、その様子を微笑ましく思いながら机の端で眺めいていたところにその爆弾はきた。
 ――――そういえば先輩はシゲと幼馴染なんですよね。
「小学生のシゲってどんなんだったんですか?!」
「すっげーかわらなさそう!」
「その頃から金髪?」
「うわ、超気になる!」
 酒の勢いも手伝って俄然盛り上がる彼らを「先輩が怯えてるでしょ!」隣にいた有希がゲンコツとともに声を張り上げる。
「すいません、先輩」
「ううんいいのよ、でもそうねー。昔の成樹か……」
 ちらりと視線をやると、有希の目にも隠しきれない好奇心がみてとれて苦笑する。と、同時に視界の端に見慣れた金髪を確認し、指を立てると小さく笑った。
「変なこと言うなって怒られちゃうから、また今度、ね」
 
 部屋に入る否や口々にあがる歓声にこたえていた成樹だが、有希との会話は聞こえていたらしい。「何がまた今度なん?」愉しげに口角を持ち上げ、にやにやと笑いながら隣に座る。
「女の子ふたりでえらい楽しそうやん、俺も入れてくれへんの?」
「いーやーよ。……にしても早かったのね、もう少しかかるって言ってたのに」
「んー、ま、ちょっと予定が変わってな。道もすいとったし。で、何の話しとったん?」
 話をそらさせない成樹に唇を曲げていると、有希が意地悪な笑みを浮かべて身を乗り出した。「あんたの小学生時代の話。結構な悪ガキだったんですって?」
 実際には話す前にきたからあてずっぽうの有希の言葉なのだが、間違ってはいないので成樹に対しての効果は十分だったようだ。せっかくのビールを苦い顔で口づける。
「ちょぉ、自分何話したん」
「別にー、たいしたことじゃないわよ。ねー?」
「ねー。あ、でも、先輩の話はまだ聞いてない!」
 どうやら有希は成樹がきたことで、矛先を変えることにしたらしい。あらと首をもたげた焦りは、せやなぁ、なんて成樹が言い出すものだから加速する。
「……C」
「は?」
「やったよなぁ、小5の段階で」
 じ、とみている成樹の視線の先に気がついて、あわてて胸元を抑えて否定する。
「ばっBよB! しかも小6になってからだしっ」
「小6で? いいなぁ〜」
「え、何々?」
「実は先輩がー」
「有希ちゃん!? 待ってお願いでたらめだからっねっ?」
 くつくつと聞こえる笑い声に「なんであんなことっ」振り返ってかみつくが、当の本人はそしらぬ顔。
 ちょっとあんたね、成樹の袖を引いて文句を言おうとしたところ、逆に成樹が耳元に唇を寄せて囁いた。
 ――――せやかて、教えたないやんか。
「あの頃のかわえぇ自分は、俺だけの宝モンやし?」
「!」
 一気に顔が赤くなったのは、決してそのセリフが気障すぎたからではないと、どくどくうるさい心臓が知っている。
 
 
 ほんの少し前の有希との会話。
 冗談めかしてごまかした言葉の裏の、ばかみたいな独占欲。
 相手も同じように想っていたことに舞い上がるぐらい喜んでしまっているなんてことは、もちろん成樹を調子に乗せるだけだから、絶対に教えたりはしないけど。

・・・・・・
書いててなんですが、小6でB、かぁ。世間的にはどうなんでしょ?

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2.その瞳にはわたしだけうつして

 彼女が携帯を変えるという。
 数日前からどうしようか悩んでいたようだが、液晶のひび割れと充電池の消耗具合にいよいよ決心したらしい。夕飯を終え落ち着いたと思ったら、もう近所のショップからもらってきたカタログを手にあれはこれはと物色していた。
 カタログに集中する彼女を後ろから抱き締め覗き込むが、予想以上の反応の無さに苦笑する。
 少しは慌ててくれてもえぇのになぁなんて思うのは、自惚れが過ぎるといったところか。
「どれにするんか決めたん?」
「んーそうねぇ、スマートフォンも気になるんだけど、カメラ機能がねぇ……」
 これとこれとね、彼女があげる候補はいずれもカメラ機能が充実しているものばかり。それらの説明を聞き流して悪戯を試みたが、無言で阻止され口角が持ち上がる。
 途端顔を出すのは、できればもう少し、という欲だ。
 彼女にさらに身を寄せ服の中に手を入れるべく動かすと、「ちょっと」彼女が上目遣いで睨んできた。
「あんたねぇ、話聞いてるの?」
「聞いとる聞いとる♪」
 カタログを奪ってベッドへ放ると彼女の眉間の皺が数を増したが、こちらの笑いは止まらない。ばたばたと暴れる彼女を上機嫌でおさえて顔を覗き込む。
「なぁ、いつ買いに行くん? 携帯」
「は? そ、それはまだ決めてないけど」
「いつでもえぇけど、俺のオフん時行こな」
 譲らんから、にっこり笑って告げると彼女の眼が大きく見開く。その反応もかわえぇなぁ。思ってしまう自分に末期だと愚かしいと嘲る自分もいるが、そんなこと、かまうものかである。
 反論しようとする彼女の唇を塞ぎ貪欲に貪って――――あかん? 二重の意味を込めて囁くと、真っ赤になった彼女が顔をそらして唇を噛んだ。その反応に満足して、彼女をさらに追い詰める。
 きっと。
 最後には、あきれた表情で彼女は笑うのだ。しょうがないわねと。次のオフはいつの日かと、そう尋ねてくれるのだ。そうさせる間合いも自信も自分にはある。あるからこれは譲れない。
 
 彼女の携帯の、一番最初の被写体という座。
 
 光徳あたりに知られでもしたら大笑いされそうな、こんな小さなわがままは、もちろん誰にも知られたくないししゃべるつもりもないけれど。

・・・・・・
かまって的なネタは割とやってしまっていたので、今回はちょっと変えてみました。
…変えてみたんですけどあまりレベル的にはかわらんのが困ったところ(^^;